2009/10/11

「千年、働いてきました」 野村進 (角川oneテーマ21)


日本には創業100年以上の会社が10万社くらいあるらしい。そういう老舗企業を取材した話。100年に一度の大波を生き延びるためのヒントがあるかもしれない。経済的な持続可能性とはどういうものなのだろうか。

世界最古の企業は西暦578年創業の「金剛組」である。聖徳太子に招かれて百済から来た宮大工が創業して、四天王寺や法隆寺を建てた。そういえば、法隆寺の一部は世界最古の木造建築物だ。

この本によると日本の老舗製造業は伝統工芸品みたいなものを作り続けているだけではなく、ケータイに詰め込まれるような様々なハイテク技術も担っている。日本は現代の最先端にいながら、その土台はどこよりも古いわけである。

日本以外のアジアには創業100年以上の会社はほとんど無いそうである。ヨーロッパにもあまり無いようだ。日本に多い長寿企業の多くが製造業だということから、著者は職人気質か商人気質かという区分を考える。日本人は職人気質で、日本以外のアジア、特に華人は商人気質なのだという。日本人の職人気質によって技能が継承され、製造業が持続してきたのだ。

僕はこの説に激しく同意する。製造業の会社に勤めていた時に中国人の若者たちと一緒に働いて全く同じことを感じていたからだ。彼らと仕事をしている間、しょっちゅう「日本人は職人気質で、中国人は商人気質だなあ」と思うことがあった。

著者はもうひとつ「削る文化」と「重ねる文化」という区分を考えている。日本の仏像は木を削って作るが、他のアジアの国々の仏像は粘土を重ねて作る。著者の論旨は曖昧ながら、「職人は削り、商人は重ねる」と言っているようだ。

これにもまた僕は同意する。小脳の権威である伊藤正男先生は「脳と心を考える」という本で「小脳は彫刻で、大脳は塑造」と述べておられる。職人の技は小脳に記憶されるし、商人の求めるお金は大脳が生み出したものだから、話はぴったり合う。

つまり、日本は小脳の国で日本以外は大脳の国なのである。日本に世界でも例外的に長寿企業が多い理由を探ると小脳に辿り着いてしまった。100年に一度の大波を乗り越えるカギは小脳にあるということになる。

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