2008/12/11

「大衆音楽史」 森正人 (中公新書)


文化地理学者である著者がフォーク、ジャズ、ブルース、ロック、レゲエ、パンク、ラップの成立について歴史的地理的要因という観点で論じている。それぞれのジャンルが生まれた社会背景が分かってなかなか面白かった。

ポピュラーミュージックの歴史を遡ると、産業革命によって失業者が増えたロンドンのストリートミュージシャンから始まったようだ。その後世界経済の中心がイギリスからアメリカに移るのに伴って、大衆音楽の中心もアメリカに移る。そこで差別される黒人や貧しい若者によって新たなジャンルが生み出され続けてきた。なるほど、あるジャンルが商業的に作られていくときには聴衆の反抗的エネルギーが最大限に利用されているわけである。

著者は、「大衆音楽が抵抗の手段でありながら産業化されていることは矛盾するようだが、それでいいのだ」と言いたいようだ。本当にそれでいいのか? 変革に向かうべきエネルギーのガス抜きになっているだけかもしれない。だから僕は昔からあまり反抗的な体裁をとった音楽に熱中しない。逆にあまりにも商業的成功ばかり目指した音楽もつまらない。要するに音楽としてどうよ、という点が一番重要である。

音楽として、という部分で頑張っていればジャンルはあまり意味が無くなると思う。そこに込められた密かなメッセージの方が実は有効に伝わるのではないか。様式美みたいなスタイルに頼ったメッセージ性はあっという間に消費されて終わる。

ところで、今後アメリカ経済が崩壊したら大衆音楽の中心もどこかに移るのだろうか。それとも世界が多極化して音楽も多極化するのか。ラップの後にどういうジャンルが生まれるのか。Jポップはこれからも世界に影響を与えられないままなのか。僕はそういうことにすごく興味があるのだが、著者は未来には全く関心が無いらしく一言も触れていない。

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