2008/06/23
「細雪」 谷崎潤一郎 (中公文庫)
「細雪」は村上春樹の「風の歌を聴け」と並んで阪神間を舞台とする二大小説である。「風の歌を聴け」は同時代の話なので惹きつけられて読んだが、「細雪」の方は昭和10年代などという大昔の小説だから古臭いだけだろうと決めつけて興味も持たずにいた。ところが、なぜか突然読みたくなったので読んでみた。
船場の旧家というから、もっとこてこてのナニワ商人が出てくる話かと思っていたが、ちょっと違った。美人四姉妹の下二人の縁談がどうなるかという話で、それだけで延々文庫本九百頁に渡って彼女らの日常生活の描写が続くのだが、これが予想外に面白い。
特に面白いのは、何か問題が起きたときの登場人物のコミュニケーションの様子である。誰に何をどう伝え、何を黙っておくのか。さらに、どういうタイミングでどういう手段で伝えるのか。そのあたりを考え込む描写が非常に優れている。
この時代の風俗も読んでいて楽しい。この人たちは主に和服を着て生活しており、舞を舞ったり三味線を弾いたり日本文化が身に付いている一方で、髪にはパーマをかけピアノやフランス語を習ったりもする。和食も洋食も中華も食べ、日本酒も飲むしワインやドイツビールを飲んだりもする。歌舞伎も見るし外国映画も見る。ハイカラである。
最近、省エネの観点で生活レベルを昭和30年代に戻そうという話があるが、この本を読むと電話もカメラもタクシーも既にある昭和10年代でもOKではないかという気がしてくる。ただ、医療はかなり貧弱であったことが印象に残る。
ところで芦屋に谷崎潤一郎記念館というのがあるので芦屋の人かと思っていたのだが、三十を過ぎてから東京から関西に移り住んだのか。それでこんな流暢な関西弁を書くとはさすがに偉大な文豪だ。
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