2006/09/18

「かんたんに幸せになりたい」 犬丸りん (幻冬舎文庫)


おじゃる丸の生みの親である犬丸りんさんが自ら命を絶ってしまった。まったりまったりを唱えていた人がなんで??と思いつつ本棚から「かんたんに幸せになりたい」を取り出して読み返した。10年くらい前に僕は子どもと一緒に夕方のNHKテレビで「おじゃる丸」を見て感心し、作者に興味を持ったのでこの本を読んだのだった。

「Q 幸福とは何か、教えてほしい」「A 幸せについて分析することから不幸は始まる」といった問答に数駒の漫画がついていて、時々短いエッセイも挟まる。自由な構成のかなり面白い本だ。漫画の主人公の「なると」は眼がクリクリしたおじゃる丸そっくりの幼児である。ほかのキャラや世界観もおじゃる丸と似ているが、性的欲望に関する身も蓋もないギャグなんかもあって大人向きである。というより、「おじゃる丸」というのはこういう犬丸ワールドを子ども向けにアレンジしたものだったわけですね。

読み返してみたらやっぱり面白くて何度も笑ってしまったが、作者が現実の世界をかなり醒めた目で見ていることにも気づく。あとがきのような文章で、この本の締め切りに追われて一時鬱状態になったとも書いている。そして「かんたんに幸せになる本を書きつつ不幸になっている自分が情けなかった」、「私はかんたんに不幸にもなってしまうタイプなのだ」という。

あれだけユニークで面白いものを創り出すには、かんたんに幸せにも不幸にもなるという「振れ幅」が必要なのかもしれない。まったりまったり幸せに暮らしているだけでは、多くの人に何かを伝える動機も表現力も持てないのではないだろうか。じゃあ、そういう動機と表現力を持った人は実は不幸ではないのか。子ども向けの「おじゃる丸」でも、そのことは漫画家「うすいさちよ」として表されている。

0 件のコメント:

コメントを投稿