2006/08/02

「幻想に生きる親子たち」 岸田秀 (文春文庫)


僕は昔岸田秀先生の本を熱心に読んでいたのだが、何の話でも「人間は本能が壊れていて、全ては幻想である、ゆえに何をどうがんばってもどうしようもない」というような結論に至るので、非建設的というか行き止まりな感じがして読まなくなってしまったのだった。でも、久しぶりに読んだら面白かった。内容はいつもながらの唯幻論なのだが、なんか前よりはポジティブな姿勢で言っているような気がする。

岸田先生の話は親子関係、男女関係から社会問題や国家の起源にまでおよぶが全てを統一的に説明していてしかも説得力があるし、文章も分かりやすいうえにユーモアがあって素晴らしく芸達者だ。しかし文部省には大学教授資格を剥奪されるし、早稲田大学もストラスブール大学も博士号を出さないのだそうだ。岸田先生は既存の権威が危険を感じて拒否反応を起こしてしまうほど偉大なのである。心理学界における岸田秀は美術界における岡本太郎みたいなものか。

この文庫は2006年2月発行だが元の単行本が出たのは2000年で、中身が書かれたのは前世紀である。結構古い。最近の文章も読んでみたくなった。

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