2015/08/21

奥田民生 アルバム レビュー

「29」 (1995)


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奥田民生ソロデビュー作。僕はユニコーンの奥田民生の曲が好きだったので、喜んですぐに買った。曲調は雑多だし、歌詞には何となくメランコリックな気分が漂っているので、アルバムとしての印象は地味だけど、どの曲もそれぞれ個性的でなかなかの名曲が揃っている。

ユニコーン時代の曲から大きく変わったのはメロディーだ。「大迷惑」「働く男」「ヒゲとボイン」「雪が降る街」「すばらしい日々」など、ユニコーン時代の民生のメロディは音程が結構激しく動くが、ソロになってからは音程の上下が少ない。それどころか、ジョビンの名曲「ワン・ノート・サンバ」みたいに、数小節にわたってほとんど同じ音程が続くことが多くなる。このアルバムでは、「息子」「愛する人よ」「奥田民生愛のテーマ」なんかがそうだ。まだ「愛のために」ではワンノートではないものの、Aメロは2つの音を行ったり来たりしているだけだ。

一番の名曲は「息子」だと思うが、この曲の歌詞は「っ」の入った言葉を多用してできている。脚韻を踏むというのはよくあるが、フレーズの途中に「っ」を多用するというのは、なかなか珍しい言葉遊びだ。

このアルバムは大半の曲をアメリカでスタジオ・ミュージシャンとともに録音しているので、音が洋楽っぽい。ドラマーはスティーブ・ジョーダンで、その後、2010年に民生はスティーブ・ジョーダンのバンド、The Verbsにギタリストとして加入することになる。

↓ユニコーン時代の名曲を聴くならこのベスト盤。


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「30」 (1995)


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「29」から半年ほどで発売されたソロ2作目。アルバムタイトルやジャケットのデザインでも明らかなように「29」と対になっている作品だが、いくつか異なる点がある。「29」がミュージシャンも含めアメリカ製のカラッと乾いたサウンドなのに対して、「30」は日本製で内向した感じに聴こえる。アメリカの録音ではスタジオの残響を活かしているが、日本の録音はエコーで空間を作っているような気がする。そういうわけで、「29」の方が音が良いように思える。

そういう違いはあるものの、「29」と「30」はセットでビートルズのホワイトアルバムを意識しているんじゃないかと思う。「息子」は「ロッキー・ラクーン」、「悩んで学んで」は「ヘルタースケルター」とか、他にもいろいろ元ネタがあるような気がする。

プロデューサーは奥田民生とアンディー・スターマーで、名曲「コーヒー」も含む4曲がスターマーとの共作だ。アンディ・スターマーはその後、奥田民生がプロデュースしたパフィーの名付け親となる。

このアルバムで大半の曲を演奏しているギター長田進、ベース根岸孝旨、ドラム古田たかし、キーボード斎藤有太が、その後10年間の民生バンドになるわけです。

「Failbox」 (1997)


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6曲入りミニアルバムで、「29」のニューヨーク録音の再現。メンバーも同じで洋楽クオリティのサウンド。ライナーノーツで渋谷陽一が民生のダラダラしたロックをこれが本来のロックだと絶賛していて、僕も大いに共感した。「野ばら」はシンプルで素晴らしい名曲。

「股旅」 (1998)


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少し寂しいというか、世を拗ねたような雰囲気が漂いますが、旅というコンセプトでまとまっている、なかなかの名作だと思います。

「イージュー★ライダー」の歌詞

まずタイトルですが、元ネタは映画「イージーライダー」。映画の詳細は調べていただくとして、とにかく若者がバイクでワイルドな旅をする話ですが、日本での公開時にタイトル表記が「イージー★ライダー」というふうになっていたんですね。

次に、なんでイージューなのか。イージューは「E十」で、30を意味します。昔、音楽業界で数を表すときに「1、2、3、4、5」を「C、D、E、F、G」に置き換えるのが流行っていたことがあるんですね。なんでCから始まるかというと、「C、D、E、F、G」が「ド、レ、ミ、ファ、ソ」を表しているからです。ただし、音楽業界用語の主流はドイツ語読みで「ツェー、デー、エー、エフ、ゲー」なので、30はエージューになるはずですが、それだとイージーライダーから離れてしまうので、英語式にしたんでしょう。

シングル発売当時、奥田民生は31歳です。イージュー=30は今の言葉でいうアラサーの年齢を表しているんだと思います。ソロデビューアルバムのタイトルが「29」、2作目が「30」で、どちらも発売時の年齢を表しているくらいで、奥田民生はこの頃、30歳という年齢を強く意識していたんですね。30になったけど、若い心は失わないぞ、でも30にもなると、いろいろ大変だよね、という感じじゃないでしょうか。 村上春樹さんが「30歳成人説」というのを唱えていますが、それと同じような感覚かもしれません。

さて、歌詞の内容ですが、前半は郊外の道路を長距離ドライブしている情景ですね。車とかドライブという言葉は出てきませんけど、そこがこの人の歌詞の優れたところです。「名曲をテープに吹き込んで」って、今の若い人には意味不明かもしれません。昔はクルマで音楽を聴くために、レコードからカセットテープというものに録音して、そのカセットを10本くらいクルマに積んでおくものだったんですよ。

「あの向こうのもっと向こうへ」というのは、もちろん長距離ドライブの楽しみがまだまだ続くことを表しているわけですが、多分もうひとつ意味があって、直前の歌詞に出てくる「名曲」を超える曲を生み出したいという音楽家としての夢や意志も同時に表現されているように聞こえます。

後半は日常生活における現実との闘いですね。休暇に長距離ドライブに出かけて、仕事なんかのゴタゴタを忘れようとしても、なかなかそうはいかない。つい休み明けの日常のことを考えてしまう。そして、1番では「僕らの自由を 僕らの青春を」と言ってたのに、2番になると「僕らは自由を 僕らは青春を」に変わりますね。「僕らの自由」という場合、自由は僕らの中にありますが、「僕らは自由を」だと自由が僕らの外側にありそうです。休みの日には自由があるけど、平日には自由が無いということを表しているともとれます。こういうふうに、「てにおは」を一文字変えるだけで実は意味がガラッと変わっているのが奥田民生の歌詞の凄いところで、本当に言葉の天才だと思います。

というわけで、30にもなると無条件に青春しているわけにもいかない。これから先も自由に生きるためには、どういうふうに意識をもっていけばいいんだろうか、というのが最後のパート。「ナニナニを ナニナニを」で終わっていて、それをどうするのかは言っていないところが面白いですね。


なお、「股旅」に収録されているのはスローバージョンの「イージュー★ライダー'97」。軽快なシングルバージョンは「Car Songs Of The Years」というコンピレーションアルバムに入っています。これはコアな民生ファン以外にもお薦めできる名盤です。


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「GOLDBLEND」 (2000)



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「股旅」は旅というコンセプトで歌詞やサウンドに統一感があったが、このアルバムは曲調の幅が広いうえにかなりシュールな歌詞が多い。イメージが発散している。でも題材は日常から取られているのが民生の非凡なところ。音楽としても自由自在にやっていて面白い。

「Lion」 (2004)


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10年間活動した民生バンドを解散して初心に還ったのか、ソロデビュー作「29」と同様に日米何種類かのメンバーで演奏している。また「30」で4曲をアンディ・スターマーと共作したように、今回は4曲がチャーリー・ドレイトンとの共作。でも「29」「30」の迷った感じとは違って、登り切った山のてっぺんで次に登る山を探しているような、ゆったりした気分が漂っている。

民生のCDは音が良いことでも有名だが、このアルバムは特にサウンド重視で作られていると思う。アレンジもメロディーも歌詞もシンプルで音の良さが判りやすいし、「サウンド・オブ・ミュージック」という曲まである。タミオの作る音そのものを楽しむならこのアルバム。

「Comp」 (2005)



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バンドのメンバーが変わって、今までビートルズっぽかった雰囲気からツェッペリンぽい感じに変わった。これは僕にとっては残念なことで、特にこのミニアルバムはギターとドラムがやかましいことばかりが印象に残る。

「Fantastic OT9」 (2008)


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これは素晴らしい! 奥田民生の最高傑作だ。本人もはっきりそう自覚しているようで、タイトルも「すばらしい奥田民生の9作目」である。何が一番良いかというと曲がポップになったこと。ポップといってもどこかで聞いたことのありそうな曲ではなく、今までどおりオリジナリティを追求しながらポップであるところがエライ。万人におすすめできるアルバム。

今までの8作ではいつも「同じ音程が8分音符で2小節くらい続くような単調なメロディ」が出てくる曲が3曲か4曲あった。ボサノバで「ワン・ノート・サンバ」という曲があるが、こちらはワン・ノート・ロックである。僕の知る限りユニコーンの時にはそういう曲は無い。民生はソロになってから意図的にメロディを単調にしてきたのだ。でも今回はついにワン・ノートのメロディがほとんど無くなった。

歌詞もいつもよりメッセージ性のある曲が多い。奥田民生のメッセージはややシュールだったり両義的だったりして伝わりにくいが、実は同時代的な問題意識にはかなり鋭いものがあると思う。今回はそういう曲がほとんどで、すごく面白い。

という具合に、僕はメロディと歌詞が特に進化していると思ったのだが、雑誌やテレビのインタビューを見ると本人が一番強調しているのはサウンドである。録音の技術で何かを掴んだらしい。何かアナログっぽくてパワフルな音だ。

タミオの曲にはいつも新しい何かがあるので、最初からすんなりとは飲み込めないのだが、聴けば聴くほど良さがわかってくる。今回は特に中身が濃くて、いつもより消化するのに時間がかかる。発売日から10日くらい聴き続けたところでやっと全貌が見えてきた感じがする。

「OTRL」 (2010)


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いつもよりシンプルなアレンジながら、なかなか良い曲が揃っている。歌詞はいつもどおり面白い。そういう風に普通に聴いてかなり良くできたアルバムなのだが、全ての楽器を一人で演奏していて、しかもライブハウスの観客の前で多重録音したという画期的な作品。

「ひとりカンタビレ」という3時間くらいのライブ1回ごとに1曲ずつ録音している。そのうちの1回はネットで中継していたので見た。CDの初回版にもダイジェスト映像のDVDが付いている。ここでもちょっとだけ見られる。すごく面白い。時間に制限があるからいろいろ試行錯誤することもできず、多少リズムがおかしくてもそれなりに他の楽器を合わせていく。簡単そうに演奏して、みるみるうちに曲ができあがるのだが、ひとりで3時間で1曲仕上げるというのは驚異的な技だ。

「OT Come Home」 (2013)



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前作「OTRL」に続いて全部の楽器をひとりで演奏しているので、手作りの雑貨のように直に伝わってくるものがある。今の時代は組織やお金に頼らず、独りでこつこつと何かを作るのが大事だよね、というメッセージが込められているような気がする。

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