2015/09/28

コトリンゴ アルバム レビュー

「songs in the birdcage」 (2007)


→ アマゾンで見てみる


コトリンゴのデビュー作。打ち込みエレクトロ・ポップという印象だが、実はピアノ弾き語りがベースで、そこに静かなリズム・トラックが被せてあったり、生のストリングスが絡んだりする。

コトリンゴの弾き語りはちょっと変わっている。弾き語りの人は「(1)楽器と歌にいっぺんに感情を込めるタイプ 」と「(2) 楽器をクールに弾いて歌に感情を乗せるタイプ」がいて、技術的には(2)の方が高度だが、コトリンゴは「(3) 歌をクールに歌って、楽器に感情を出す」というとても珍しいタイプである。 当然ながら録音時は歌と演奏を別々に録っているわけだけど、僕はライブで弾き語りを何度も観たが生でもボーカルが静かでピアノが熱い。 

 ピアノは小さい音で遠くに聴こえるように控え目に録音されていてあまり目立たないのだが、よく聴くと凄い。ワイルドに弾きまくっているときほど音が小さいところにバランス感覚と美意識が感じられる。

静かな曲ばかりなので聞き流すと地味な印象だが、じっくり向き合って聴くとだんだん細部が見えて、真価が分かってきた。

「nemurugirl」 (2008)


→ アマゾンで見てみる


6曲入りミニアルバム。6曲しかないけど曲調が多彩で素晴らしい。

1 runnaway girl
ストリングスの雰囲気やワルツのリズム、女の子が逃げるという歌詞まで、ビートルズのShe's Leaving Homeに似ている。

2 chocolate
スピード感があるフュージョン調の曲。ドラマチックな展開。 7拍子でとてもカッコイイ。

3 snowman
ヒップホップ風打ち込みサウンド。 おもちゃのようなサンプリング音のリズムが気持ち良い。1曲目の歌詞と話が呼応しているのが面白い。

4 itsumo
静かなピアノ弾き語り。この人のバラード曲はメロディも美しいし、リズムの腰が座っていて非常に良い。

5 jump jump
エレクトロ・ポップ。盛り上がったりゆったりしたり、緩急自在の不思議なアレンジが愉しい。

6 ふわふわsong
ミスタードーナツのCMの曲。「フワフワ、フワフワ」言っているだけだが、よく聴くとジャズ。渋い。

コトリンゴの音楽はメロディ、リズム、アレンジ、音色、言葉の使い方など、全てが耳に気持ち良い。ピアノもめちゃ上手い。聴いていると美味しいものを食べているときのように嬉しくなる。

「Sweet Nest」 (2008)


→ アマゾンで見てみる


2008年の夏のある日、テレビのチャンネルを変えていると音楽番組に坂本龍一が出てたので見ていたら、途中で若手ミュージシャンを紹介するコーナーがあり、そこでコトリンゴの「おいでよ」という曲が30秒ほどだけ流れた。それがとても気に入ったので、1ヶ月後ぐらいに発売されたこの「Sweet Nest」というアルバムを買った。というのが、僕がコトリンゴのファンになったきっかけ。

最初に思ったのは、子どもみたいな声で静かに歌っているが、センスが良くて安心して聴けるということ。ピアノで作りました系のポップな曲が僕のツボにはまった。編曲も自分でやっているようだが、バンドサウンドも打込みエレクトロも凝ったアレンジをシンプルにまとめていて良い。オリジナリティがありながらポップで分かりやすい。

まだデビューして2年だというのにかなりアイデアとテクニックとバランス感覚がある。爆発的なパワーは無いけど、これからだんだん有名になって長く活躍するのは間違いないだろうと確信した。

2015年現在の感想をいうと、曲の多様性がありながら全体としてうまくまとまっていて、コトリンゴのアルバムの最高傑作じゃないかと思う。もしかすると、生楽器の割合が一番多くて爽やかなサウンドだからかもしれない。

最後の曲「to stanford」はとても美しい名曲。もともと前半部分しか無かったのだが、坂本教授の指示で後半を付け加えたそうだ。坂本龍一も自分のアルバムでカバーしている。

「trick & tweet」 (2009)


→ アマゾンで見てみる


今まではジャズとクラシックの要素が多く感じられたが、エレキギターを使うようになってロックっぽい雰囲気も加わった。イメージ豊かなサウンドであることは変わらず、できあがった音楽の完成度はますます高くなっている。ジャズもクラシックもロックもコンピュータ・ミュージックも、コトリンゴのフワフワ声を中心とするポップに統合されてしまった。

作詞、作曲、編曲、歌、演奏の全てに才能が感じられる。どれか一つだけでも一流の専門家としてやっていけそうだ。色々な才能があるということではなくて、「音楽」という一つの才能を色々な形で表すための努力を積み重ねた結果だろうと思う。でも、その核にある才能は天性のものであるような気がする。天才と努力によって創造的でありながらポップな表現に到達しているのではないか。

この人の音楽は色々な意味で良くできているが、特に優れているのは編曲だ。音の組み合わせ方が立体的かつストーリー性が感じられて面白い。ジャンルやフォーマットに囚われず、曲ごとに違うアプローチで音を描いていて、しかも14曲もあるので内容が膨大である。数回聴いたくらいでは全然消化できず、20回くらい聴いてやっと全貌を把握できてきた。聴けば聴くほど良さが分かる。コトリンゴのアルバムの中で一番曲数が多くて一番ポップだ。

「picnic album 1」 (2010)


→ アマゾンで見てみる


恋とマシンガン (フリッパーズギター)
渚 (スピッツ)
シカゴ (クラムボン)
かなしいことり (斉藤由貴)
悲しくてやりきれない (ザ・フォーク・クルセダーズ)
以心電信 (YMO)
う、ふ、ふ、ふ、 (EPO)
ノーサイド (松任谷由実)

日本のポップのカバー。僕が若い頃に聞いたような古い曲が多い。最近のJ-POPにはあんまり良い曲が無いよね、ということだろうか。どの曲も静かに歌っているので全体的に地味に感じるが、よく聴くとアレンジのアイデアが豊富で味がある。

坂本龍一と関係の深いファニー・ヴォイスのジャズ系ピアニストということで、矢野顕子と比べてしまうのだが、矢野顕子が他人の曲をカバーすると原形を留めないのに対して、コトリンゴはアレンジを激しく変えているのに原曲の雰囲気を保っている。それはメロディとコードをあまり変えていないからだ。完全オリジナルな自分のサウンドと原曲のイメージが両立していて感心した。

「picnic album 2」 (2011)


→ アマゾンで見てみる


Downtown (Petula Clark)
Video Killed The Radio Star (Buggles)
Let Down (Radiohead)
I Want You Back (The Jackson 5)
Hyperballad (Björk)
Hallelujah (Jeff Buckley)
She's A Rainbow (The Rolling Stones)
Kiss Me (Sixpence None the Richer)

今度は洋楽カバー。「Picnic Album 1」よりアレンジが多彩で、選曲も「ラジオスターの悲劇」、ビョークの「ハイパーバラッド」、ジャクソン・ファイブの「アイ・ウォント・ユー・バック」など洒落ていて面白い。最近の音楽業界はネタ切れのせいかカバー曲が大はやりだが、新たな解釈で原曲の良さを表現できているものはとても少ない。そういう意味でコトリンゴのカバーは飛び抜けて優れている。サウンドは100%自分の世界なのに原曲の世界観も保っている。すごい才能だ。

「La memoire de mon bandwagon」 (2012)


→ アマゾンで見てみる


5曲入りミニアルバム。コトリンゴの曲はパターンが豊富だが、大きく分けると、打ち込みエレクトロ・ポップと、ピアノ弾き語りと、バンドサウンドがある。僕はバンドサウンドの曲が好きなので、バンドサウンドだけのアルバムを作って欲しいなあと思っていた。このアルバムはベースとドラムを入れたピアノトリオのコトリンゴバンドで作っている。プロモーションの写真なんかも揃いの衣装を着た3人で写っていて、バンド指向を前面に出している。

聴いてみると、バンドとはいうものの、今までどおりいろいろな曲調がある。もっとジャズ・フュージョン志向でガンガンやるのかと思ったら、そういうものではなかった。いつもながらコトリンゴのピアノは表現力が豊かでアレンジもイメージが多彩だ。ファンタジックな短編映画に付けた音楽みたいに聴こえる。

それぞれの曲は良いのだが、僕の耳はフルアルバムのサイズに適応し過ぎているので、このミニアルバムという形式は短くて困る。前菜だけで終わりみたいで物足りない。

「ツバメ・ノヴェレッテ」 (2012)


→ アマゾンで見てみる


アルバムタイトルの表記が初めて日本語になった。ツバメはもちろん燕のことだけど、ノヴェレッテは何かというと、短編小説のことらしい。英語のnovelの仲間。さらに調べてみると、音楽用語でもあるのだった。プーランクの「3つのノヴェレッテ」をパスカル・ロジェが弾いているCDが手元にあったので聴いてみると、このツバメ・ノヴェレッテに通じる雰囲気がある。

紙製のCDジャケットが歌詞カード兼絵本になっていて、曲が絵本のサウンドトラックという趣向。ピアノ、ベース、ドラムのコトリンゴ・トリオが基本だが、いつものようにピアノ弾き語りも、打込みもある。

打込みのサンプリング音は生楽器がほとんどで、いつもと違い、あまりエレクトロじゃなくてクラシカルな雰囲気。オーケストラのように聴こえるサウンドも全部打込みのようだから、スコアを自分で書いて、自分でプログラミングしているのだろう。

このアルバムをスタジオで録音している様子を12時間×3日間、ネットで生中継していた。僕は仕事をしながらずーっと観ていたので、曲を聴くとその映像が浮かんでくる。

「birdcore!」 (2013)


→ アマゾンで見てみる


前作はツバメの絵本で完全に統一されたコンセプトのアルバムだったが、今回は曲が多彩で、全体のまとまりはあまりない。どの曲もコトリンゴ・オリジナルな曲調と、細部まで配慮が行き届いたアレンジはいつもどおり。

「読み合うふたり」という曲、前半シンプルなアレンジだなと思ったら、後半に三拍子と四拍子と五拍子のポリリズムというすごい展開になる。しかも、ポリリズムが判りやすいように「イチ、ニ、サン、シ、ゴ」と歌っているのが啓蒙的で面白い。

0 件のコメント:

コメントを投稿